2012年6月17日日曜日
「刑事裁判を見る眼」 渡部保夫
死刑制度についての議論をネットでそんなに読んでいないけれど、ふと思い出したので賛成、反対とか言う前にこの本をぜひ読んで欲しい。
そしてまた、裁判委員として裁判に参加する人にもこの本はかなりお薦めである。
「刑事裁判を見る目」
この本は著者である渡部保夫氏が
実際に起った殺人事件を最高裁判所調査官として担当していたときのことを、裁判の流れを追いながら素人にもわかりやすく刑事裁判について書かれている。
裁判官はどのようなの観点で証拠を検討するのかなど、自分のような素人が見てもわかりやすく書かれている。
ちょっとしたサスペンスを読んでいるようで面白い。
裁判官というものは皆、客観的、論理的にそして忠実に事件を判断している色のない世界だと思っていたが、それぞれ個性があり、何人かの裁判官もキャッチーなフレーズとともに実名で紹介されている。
司法界にもこんな面白い方々がいるのかと感心してしまった。
この本では
若者が殺人の容疑にかけられた。第一審では無罪の判決を勝ち取ったにも関わらず、第二審で有罪。最高裁判まで判決が縺れ、そして著者が調査員としてこの事件を担当した。その当時を物的証拠、状況証拠を交えつつ、本人の視点から裁判の様子を解説している。
結果的に被疑者は無罪となったのだが、一体何故このような冤罪が起こってしまうのか、現在の司法界に存在する矛盾や被疑者への不十分なシステムが浮き彫りにされている。
私は素人なので、この本を読んでとりあえず今の司法って全然制度的にダメじゃん。って素直に思ってしまったのだが、皆さんはどう感じたのだろうか。
まずびっくりしたのが、昭和二十六年頃には千人中十七人であった無罪率が平成十年から平成十二年にかけては千人中0.7人。この数字だけを見ることは危険だが、これはあまりにも低い数字ではないだろうか。
その背景には
長時間取調室に閉じ込め、肉体的、精神的に追い詰め、さらに本人からの発言からではなく、検察側がつくり上げた自白調書にサインをさせ、それを証拠として提出する検察。
そして客観的な事件の推定ではなく、有罪に傾くような証拠ばかりを羅列し、被疑者を犯人だと決め付けた上で行われる捜査。
これが実際に起ったことだ思うとぞっとしてしまう。
良い裁判官とはどうあるべきか、裁判で判断を下すにはどの様のことに気をつけなければならないか、今の司法制度の矛盾、そして刑事裁判とは何かをわかりやすく、小説のように読むことができる。
是非一読あれ。
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